クラウドバックアップはどう選ぶ?導入のための選定ポイント

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クラウドバックアップはどう選ぶ?

1.クラウドバックアップの基礎知識

データ保護の手法は、テクノロジーの進化とともに大きく変化してきました。クラウドバックアップは、その最新の選択肢として注目を集めています。ここでは、基本的な概念から解説していきます。

クラウドバックアップの新たな定義

クラウドバックアップ

クラウドバックアップは、現代のデジタル環境において、2つのアプローチに分類されます。1つは「パブリッククラウドへのバックアップ」(Backup to Cloud)、もう1つは「パブリッククラウド上のデータのバックアップ」(Backup of Cloud)です。これらのアプローチは、単にデータを保存するだけでなく、デジタル庁のガバメントクラウドチームが提唱する「クラウドスマート」の考え方に基づいています。クラウドサービスを賢く適切に活用することで、より効果的なデータ保護を実現できるというものです。

企業システムの新しい潮流

現代の企業システムは、大きく2つの方向性で展開されています。長年の実績を持つ大企業や既存組織では、オンプレミス環境を基盤としながら段階的にクラウドを導入する「オンプレファースト」のアプローチを取ることが一般的です。

一方、ベンチャー企業や小規模事業者では、システムの柔軟性と拡張性を重視し、「クラウドファースト」のアプローチを採用することが増えています。これは、過去の制約が少なく、システムの移行が比較的容易であることが背景にあります。

クラウドバックアップのメリット

クラウドバックアップには、従来型のバックアップと比較して、以下のようなメリットがあります。
クラウドバックアップメリット

コスト最適化のメリット

オブジェクトストレージ(AWS S3やAzure Blob Storage)を活用することで、従来型のストレージと比較して大幅なコスト削減が可能です。これらのクラウドサービスは従量課金制を採用しており、必要な容量に応じて柔軟に料金プランを選択できるため、必要な分だけを支払うことができます。さらに、データのアクセス頻度に応じて最適なストレージクラスを選択することで、より効率的なコスト管理が可能となります。

また、クラウドバックアップでは、自社でサーバーを設置・保守管理する必要がないため、初期投資や運用コストを大幅に削減できます。データ規模が拡大しても、容量を増やすだけで対応可能なため、スケーラビリティにも優れています。加えて、クラウドサービスは減価償却対象外となるため、経理処理の簡素化にも貢献します。これらの要因により、多くの場合、クラウドバックアップの方が総合的に見てコスト効率が高くなります。


運用効率の向上

クラウドバックアップでは、データの保存方法を目的に応じて最適化することで、運用効率を大幅に向上させることができます。具体的には、以下の3つの形式からニーズに合わせて選択することが可能です。

  • バックアップデータの直接保存(フォーマット未変換)

オンプレミス環境のバックアップデータをそのままクラウドに保存することで、シンプルかつ確実なデータ保護を実現します。特に、既存のバックアップシステムとの親和性が高く、導入がスムーズです。

  • DRサイトとしての活用(フォーマット変換)

クラウド上にDR環境を構築し、データを適切なフォーマットに変換して保存することで、災害時の迅速な復旧を可能にします。平常時のコストを抑えながら、高度な事業継続性を確保できます。

  • アーカイブデータとしての長期保存

法令遵守や監査対応で必要となる長期保存データを、低コストで安全に管理することができます。データの世代管理や保持期間の設定も柔軟に行えるため、コンプライアンス要件にも対応可能です。

柔軟なスケーラビリティ

必要に応じてストレージ容量を柔軟に増減できる特性により、ビジネスの成長に合わせた拡張が可能です。また、従量課金制により、初期投資を抑制しながら必要な分だけのリソースを確保できます。

セキュリティと信頼性の向上

大手クラウドプロバイダーが提供する堅牢なインフラストラクチャにより、高度なセキュリティと信頼性を確保できます。また、地理的に分散されたデータセンターを活用することで、災害対策としても有効です。

このように、クラウドバックアップは単なるデータ保護の手段としてだけでなく、現代のビジネス要件に応える包括的なソリューションとして位置づけられています。特に、コンプライアンス要件や事業継続性の観点から、その重要性は今後さらに高まっていくことが予想されます。

2.製品・サービス選定のポイント

クラウドバックアップの基本的な概念とメリットを理解したところで、次は具体的な製品やサービスの選び方について見ていきましょう。選択を誤ると、期待した効果が得られないだけでなく、運用効率の低下や予期せぬコストの発生につながる可能性があります。以下の4つの重要なポイントを確認しながら、慎重に選定を進めることをおすすめします。

クラウドバックアップ製品の重要な機能要件

リストア時の柔軟性

データのリストア機能は、製品選定において最も重要な評価ポイントの一つです。クラウドへのバックアップは多くの製品で可能ですが、オンプレミス環境への確実なリストアができない、または複雑な手順が必要となる製品も存在します。

特に重要となるのがデータ形式の変換機能です。AWS AMI、Azure VHD、VMware VMDKなど、様々な形式間での変換が求められる中、GUIによる簡単な操作で変換とリストアが可能かどうかを確認する必要があります。製品によってはコマンドラインでの複雑な操作が必要となる場合もあり、運用担当者のスキルレベルも考慮に入れた選定が求められます。

カタログ管理方式

バックアップ製品によって、カタログデータの管理方式が大きく異なります。カタログサーバー管理型の製品では、バックアップサーバーでカタログを集中管理することで効率的なデータ管理と高い重複排除率を実現できる可能性がありますが、サーバー障害時にはカタログの復旧が必要となる場合があります。ただし、最新の製品では、カタログのレプリケーションや分散管理機能を備えているものもあり、単一障害点のリスクを軽減しています。

一方、分散管理型の製品では、バックアップデータ内にカタログ情報を保持するため、サーバー障害時の復旧は容易ですが、重複排除率は比較的低くなります。この違いは、システム障害時の復旧手順に大きく影響するため、自社の運用体制に合わせた選択が重要です。

レジューム機能の実装

大容量データの転送時に特に重要となるレジューム機能は、製品選定における重要な判断材料です。インターネット回線が途切れた際に、転送を中断した位置から再開できる機能により、効率的なデータ転送が実現できます。

特に監視カメラのデータなど、大容量ファイルの転送時には不可欠な機能となります。回線品質が不安定な環境や、長時間のバックアップが必要な場合には、この機能の有無が運用効率を大きく左右します。

管理インターフェースの統一性

運用効率を左右する重要な要素として、管理インターフェースの統一性があります。オンプレミスとクラウドで同じ管理画面を使用できる製品では、運用担当者の学習コストを大幅に削減できます。また、操作手順や用語の統一により、作業ミスのリスクも低減できます。さらに、一元的な監視や運用が可能となることで、日常的な管理業務の効率化にも貢献します。

選定時の確認事項

製品選定に際しては、実際の運用シナリオに基づいた詳細な評価が必要です。リストア手順の確認では、実際の作業時間や必要なスキルレベルを具体的に把握することが重要です。また、カタログ復旧が必要な製品の場合、その作業手順と所要時間を事前に確認しておくことで、障害時の対応を円滑に進めることができます。大容量データの転送についても、検証環境での動作確認を行い、レジューム機能の効果を実際に確認することをおすすめめします。

このように、クラウドバックアップ製品の選定では、単純な機能比較だけでなく、実運用を見据えた詳細な評価が必要です。完璧な製品は存在しませんが、これらのポイントを押さえることで、より適切な選択が可能となります。重要なのは、自社の運用要件に合致した製品を選択することです。

価格・費用の詳細確認

クラウドバックアップの価格体系は、一見シンプルに見えて実は複雑です。総保有コスト(TCO)を正確に把握するためには、以下の要素を詳細に確認する必要があります。

基本料金構造

  • ライセンス費用:バックアップ対象の容量やサーバー数に応じた課金
  • 保守サポート費用:技術サポートやバージョンアップの費用
  • クラウドストレージ費用:データ保管に関する従量課金

データ転送に関する費用

データ転送時には、特に注意が必要な費用が発生します。

  • クラウドからのダウンロード費用(アウトバウンド通信)
  • APIリクエスト費用:バックアップやリストア操作の都度発生
  • 地域間転送が発生する場合の追加費用

特に注意が必要なのは、APIリクエスト費用とダウンロード費用です。バックアップ用途でクラウドストレージを利用する場合、データの保存や取り出しの都度APIリクエスト費用が発生します。また、災害復旧(DR)などで大量のデータをダウンロードする際には、予想以上のコストがかかる可能性があります。

付随する運用コスト

実運用では、以下のような追加コストも考慮に入れる必要があります。

  • ネットワーク帯域の増強費用
  • 運用管理ツールの導入費用
  • 運用担当者の教育費用

長期的な運用を見据えた場合、データ量の増加に伴う将来的なコスト増加も考慮に入れる必要があります。これらの費用は、選択するクラウドプロバイダーやバックアップ製品によって大きく異なります。複数の製品を比較検討する際は、単純な初期費用だけでなく、実運用を想定した総合的なコスト評価を行うことをおすすめします。

クラウドバックアップの価格体系は、一見シンプルに見えて実は複雑です。基本料金に加えて、データ転送量、APIリクエスト数、ストレージ使用量に応じた従量課金が発生するのが一般的です。

特に重要なのは、災害復旧(DR)時のコスト試算です。大量のデータをクラウドからダウンロードする際には、データ転送費用とAPIリクエスト費用の両方が発生し、予想以上のコストとなる可能性があります。そのため、平常時のバックアップコストだけでなく、緊急時の復旧シナリオも含めた総合的な費用試算が重要となります。

これらの費用は、選択するクラウドプロバイダーやバックアップ製品によって大きく異なります。製品選定の際は、初期費用だけでなく、長期的な運用を見据えたデータ量の増加や、実運用における様々なシナリオを想定した総合的なコスト評価を行うことをおすすめします。

3.セキュリティ対策

クラウドバックアップ

クラウドバックアップを安全に活用するためには、適切なセキュリティ対策が不可欠です。データの機密性を保ちながら、必要な時に確実にアクセスできる環境を整える必要があります。

ランサムウェア対策

近年、ランサムウェアによる被害が深刻化しており、バックアップデータの保護は特に重要な課題となっています。クラウドバックアップでは、「イミュータブルバックアップ」と呼ばれる手法を活用することで、データの改ざんや削除を防ぐことができます。

この仕組みでは、一度保存したバックアップデータを、指定した期間は誰も変更や削除ができないよう設定します。そのため、たとえランサムウェアに感染したとしても、バックアップデータは安全に保護されます。また、世代管理機能と組み合わせることで、より強固な保護体制を築くことができます。

ただし、イミュータブルバックアップを含む高度なセキュリティ機能は、製品やサービスのエディションによって利用可能性が異なる場合があります。導入を検討する際は、必要な機能が含まれているかを確認することが重要です。

データ保護の方法

クラウドバックアップにおけるデータ保護は、「保管時の暗号化」と「転送時の暗号化」の両方を考慮する必要があります。保管時の暗号化では、データをクラウド上に保存する前に暗号化を行い、万が一クラウド事業者のシステムに不正アクセスがあった場合でも、データの機密性を保つことができます。

一方、転送時の暗号化では、社内からクラウドへデータを送信する際の通信を保護します。これにより、通信経路上での情報漏洩や改ざんを防ぐことができます。さらに、暗号化キーを自社で管理することにより、セキュリティレベルをさらに高めます。

リスク管理

効果的なリスク管理のためには、アクセス権限の適切な設定が不可欠です。バックアップの実行や、データの復元といった重要な操作は、限られた担当者のみが実行できるよう制限を設けます。また、操作ログを取得・保管することで、不正な操作や設定ミスの早期発見にもつながります。

定期的なセキュリティ監査も重要です。バックアップ設定の見直しや、アクセス権限の棚卸しなどを計画的に実施することで、セキュリティリスクの低減を図ることができます。

4.まとめ

クラウドバックアップは、デジタル時代における企業のデータ保護に欠かせない選択肢となっています。導入に際しては、自社の規模や業種、データ量、セキュリティ要件などを総合的に検討し、適切なサービスを選定することが重要です。各セクションで解説した基礎知識、製品選定、運用方法、セキュリティ対策の4つの観点から慎重に検討を進めることで、効果的なクラウドバックアップの導入が実現できます。

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