クラウドマイグレーションとは、オンプレミス(自社運用)の情報システムをクラウド環境へ移行することです。昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進において、避けて通れない重要な取り組みとなっています。
本記事では、クラウドマイグレーションの基礎的な概念から、具体的な移行手順、成功のためのポイントまでを、実務者の視点で詳しく解説します。これから移行を検討する方はもちろん、すでにプロジェクトを進行中の方にも役立つ実践的な情報をお届けします。
クラウドマイグレーションの基礎知識
情報システムの在り方が大きく変わる中で、クラウドへの移行は避けては通れない課題となっています。まずは基本的な概念と種類について理解を深めましょう。
クラウドとオンプレミスの違い
オンプレミス | クラウド | |
初期投資 | 大きい(サーバー、ライセンス等) | 小さい(契約手数料等) |
運用コスト | 維持費中心(メンテナンス費・人件費など) | 従量課金中心 |
拡張性 | 物理的な制約あり | 柔軟な拡張が可能 |
セキュリティ | 自社管理 | サービス事業者と責任分界 |
メンテナンス | 自社対応 | 一部をサービス事業者が対応 |
カスタマイズ | 自由度が高い | サービスの制約あり |
このように、クラウドとオンプレミスにはそれぞれ特徴的な違いがあります。
初期投資と運用コストの構造が大きく異なるほか、拡張性や管理方法などでも明確な違いが見られます。
自社の状況に応じて、これらの特徴を十分に理解した上で選択を行いましょう。
クラウドの種類と特徴
クラウド環境は、用途や要件に応じて複数の形態から選択することができます。事業規模や目的に合わせて選択をすることで、クラウド化のメリットを最大限に活かすことができます。それぞれの特徴を理解し、選ぶようにしましょう。
- パブリッククラウド
インターネットを通じて誰でも利用できる共有型のクラウドサービスです。初期コストを抑えられ、迅速な導入が可能という特徴があります。一方で、カスタマイズ性には一定の制限があります。
- プライベートクラウド
特定の組織専用に構築されるクラウド環境です。セキュリティ要件が厳しい場合や、独自の要件に基づいたカスタマイズが必要な場合に選ばれます。初期コストは比較的高くなりますが、自由度の高い環境を作れます。
- ハイブリッドクラウド
パブリックとプライベートの両方の特徴を活かした構成です。重要なデータはプライベートクラウドで管理し、一般的なサービスはパブリッククラウドで運用するなど、用途に応じて使い分けることができます。
- マルチクラウド
複数のクラウドサービスを目的に応じて使い分ける形態です。特定のベンダーへ依存することなく、それぞれのサービスの長所を活かした柔軟な運用が可能です。
主要なクラウドサービス
クラウドサービスは、提供される機能の範囲によって3つのカテゴリーに分類されます。
- IaaS(Infrastructure as a Service)
サーバ、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアやインフラを利用できるサービスです。利用者はその上にOS、ミドルウェア、アプリケーションを構築できます。例えば、仮想サーバーを借りて自社でシステムを構築するような場合に選択します。
- PaaS(Platform as a Service)
IaaSに加えて、システム開発に必要なアプリケーションとOSをつなぐミドルウェアやデータベース管理システム、プログラミング言語、WebサーバーOSなどといったソフトウェア一式を提供するサービスです。Webアプリケーションの開発環境として利用する場合に適しています。
- SaaS(Software as a Service)
サービス事業者がクラウドサーバー上でアプリケーションを提供し、インターネットを介してユーザーが利用することができるサービスです。具体的には、メールサービスやグループウェア、ビデオ会議システムなど、すぐに利用開始できるビジネスツールが該当します。
クラウドマイグレーションのメリット
クラウド移行を決断する企業が増えている背景には、明確なメリットが存在します。
コスト面のメリット
クラウド移行によるコスト面での最大のメリットは、初期投資の大幅な削減です。
従来のように高額なハードウェアの購入や、データセンターの構築が不要となります。
また、従量課金制の採用により、実際の利用量に応じた最適なコスト管理ができるのもポイントです。
加えて、複数企業でインフラを共有することによるスケールメリットが働き、保守作業の効率化による運用コストの削減も期待できます。
運用面のメリット
運用面では、システム監視や保守作業が大幅に効率化できるようになります。クラウドサービスの提供するツールや自動化機能により、従来は手作業で行っていた多くの作業を省力化できます。
また、リソースの拡張や縮小が柔軟に行えることも特徴です。急なシステム要件の変更にも迅速に対応することが可能になります。このほか、クラウド事業者による継続的な技術更新の恩恵を受けられ、常に最新の技術を活用できる環境が整います。
ビジネス面のメリット
ビジネスの観点では、市場の変化に迅速な対応が可能になるというメリットがあります。新規サービスの開発やテスト環境の構築が容易になり、イノベーションのスピードを加速することができます。
特に大きな変化が期待できるのは、グローバル展開においてです。
世界各地のデータセンターを活用することで、スムーズにサービスを提供できます。
そしてデータ活用の可能性も注目に値します。クラウド上に集約されたデータを活用することで、より効果的なビジネス分析や意思決定を行うことができます。
クラウドマイグレーションの手順
効果的なクラウド移行を実現するための、具体的な手順を解説します。
移行準備フェーズ
移行プロジェクトの第一歩として、現状システムの棚卸しからはじめましょう。利用中のアプリケーション、データベース、ミドルウェアなどの一覧を作成し、それぞれの依存関係を整理します。この情報をもとに、移行対象システムの優先順位を設定し、具体的な作業範囲を確定させます。また、プロジェクト全体の予算案を作成し、必要なリソースの確保を行います。
計画立案フェーズ
計画立案では、具体的な移行方式を決定します。移行方式には主に以下の3つがあります。
- リホスト:最小限の変更での移行
- リプラットフォーム:一部最適化を含む移行
- リファクタリング:大幅な改修を含む移行
この選択に基づき、具体的なマイルストーンを設定します。システムごとの移行順序、作業スケジュール、要員数、具体的な作業手順などを明確化します。
実行フェーズ
計画に基づき、まずテスト環境の構築を行います。開発環境、検証環境、ステージング環境など、順次準備します。続いて、事前に確立した手順に従って実際のデータ移行を実施していきましょう。
移行後は、システムの基本動作、パフォーマンス、データの整合性など、様々な観点から検証を行います
運用移行フェーズ
最終段階として、本番環境への移行を実施します。まずは小規模なシステムで試験運用を行い、問題がないことを確認し、その後段階的に移行範囲を拡大していきましょう。各段階で想定通りの動作を確認しながら、最終的に全面移行を完了させます。
失敗しないための重要ポイント
クラウド移行を成功に導くために、特に注意すべきポイントを解説します。
技術面の注意点
クラウド移行の成功には、技術面での綿密な検討と準備が不可欠です。特に以下のチェックリスト項目については、プロジェクト開始前に十分な検討が必要です。
□ アプリケーションの互換性確認
□ ネットワーク帯域の要件定義
□ セキュリティ設計の見直し
□ バックアップ方式の決定
□ 監視方法の確立
運用面の注意点
クラウド環境では、従来のオンプレミス運用とは異なる考え方が求められます。特にコスト管理においては、従量課金制を前提とした予算管理の仕組みを確立する必要があります。
また、システムの可用性を確保するため、自動復旧やスケーリングなどのクラウドならではの機能を適切に活用する方法を検討します。障害対応においても、クラウド事業者のサポート体制を考慮した新しい対応フローを整備することが重要です。
組織面の注意点
クラウド移行の成否を分けるのは、技術面よりも組織面の準備といっても過言ではありません。まずは、経営層を含めた組織全体でクラウド移行の目的と効果を共有することです。
また、従来の運用体制からクラウド運用体制への移行には、組織文化の変革も必要になります。DevOps(デブオプス)の導入や、アジャイルな開発・運用体制の確立など、新しい働き方への移行を計画的に進めることが求められます。
まとめ:成功するクラウドマイグレーションに向けて
クラウドマイグレーションは、単なるシステム移行ではなく、企業のデジタル変革を実現するための第一歩です。特に重要なのは、技術、運用、組織の3つの視点からバランスの取れた検討を行うことです。本記事で解説した基礎知識と実践手順を参考に、自社に最適な移行計画を策定してみましょう。
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