ケーススタディ

マニュアル、ガイダンス一切なし
それでも従業員1万人に定着したWeb会議とは

マニュアル、ガイダンス一切なし それでも従業員1万人に定着したWeb会議とは

感染症対策や働き方改革で脚光を浴びるテレワーク。自社に最適なツールを見極めようと悩む組織も少なくない。こうした中、マニュアルなしで1万人近くの従業員がWeb会議システムをフル活用する企業がある。普及の原動力はどこにあったか。

Web会議システムを2年間利用、業務に欠かせないツールに

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は月1回、社内の従業員を対象に、グループ各社の取り組みや全社プロジェクトの進捗(しんちょく)を共有する会議を開く。

グループの従業員はこれまで、各社の会議室に集い、ビデオ会議の専用端末を使って月例会議に参加していた。しかし、専用端末のある会議室は数が限られ、収容できる人数にも限りがある。そのため、参加したくてもできない従業員は多かったという。

CTC 菅原 高道氏

CTC 菅原 高道氏

しかし2018年2月以降はグループの従業員が全員参加できるようになった。Web会議システムの「Zoom」を全社に展開し、従業員が自分のPCやスマートフォンなどから簡単に配信映像にアクセスできるようになったためだ。

同社でZoomの全社展開をリードしたCTCの菅原高道氏(サービスデザイングループ 情報システム室 情報システム部 クライアントシステム課 課長)は、「最初は大々的に告知していなかったこともあり、Web会議を利用した参加者は多くはありませんでした。しかし、簡単に自分のPCなどからアクセスでき、映像を後から見返せるようになったので、参加者の数はうなぎのぼりで増えていきました。『今まで参加できなかったが、Zoomのおかげで毎月参加するようになった』という声も数多く寄せられています」と話す。

菅原氏によると、普及のきっかけは毎年4月に開催する全社ミーティングでの採用だった。2018年4月に開催されたキックオフミーティングで、既に導入していたZoomを活用したところ、便利さを実感した従業員が積極的に利用するようになり、急速に普及していったという。2018年2月の導入から1カ月で同社のZoomユーザーは1000人を超えていたが、現在は社員と業務委託を含めた1万6000人の従業員のうち約半数が日常的に利用しているという。

図:CTCにおけるZoomの活用状況

Zoomの運用を担当するCTCの田中貴之氏(サービスデザイングループ 情報システム室 情報システム部 クライアントシステム課)はこう話す。

「当初の導入目的はウェビナー機能を使った会議の配信だったのですが、今では社内でのちょっとした打ち合わせや在宅勤務での業務連絡など、あらゆるシーンで利用されるようになりました。全社展開から約2年がたち、日々の業務に欠かせないツールになっています」(田中氏)

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「中継用カメラ」や「簡易トランシーバー」としても活用

Web会議システムと言うと、ユーザーがPCで小さなウィンドウを立ち上げ、マイク付きのイヤフォンなどを装着して自分の声の張りに注意しながら頑張って会話を成立させるというイメージがある。実際、Web会議システムの通信が途切れないように、あらかじめ無線LAN環境の良い場所に移動し、決められた時間になったら電話で連絡を取り合ってようやくスタートすることもあるのではないだろうか。

だが、CTCの場合はもっとカジュアルだ。

「Zoomは画質や音質が良く、専用のビデオ会議システムと比較しても、ストレスなくコミュニケーションを取れます。スマートフォンからも使えるので、PCでテキストをやりとりしながら、Zoomを使って映像を見せるといった使い方もできます。コミュニケーションの中で映像が必要な場合にさっとZoomを立ち上げるようなイメージです」(菅原氏)

例えば、営業担当者やマーケティング担当者が、販売促進用のWebサイトのキャンペーン画面を見ながら打ち合わせをする場合がある。遠隔にいるデザイナーなどとやりとりするときに「このパーツのデザインはこうしたい」「ここをクリックしたらこう遷移させたい」といったディテールを話し合う場合、電話やメールだけではニュアンスを伝えにくい。そんなときにPCの画面をそのままスマートフォンのZoomで撮影し「こんな感じで」と伝えるというわけだ。

「音声と映像で情報を伝えられるため、コミュニケーションを大きく効率化できます。電話でのコミュニケーションから映像を使ったコミュニケーションにスムーズに移行でき、作業の手間や心理的な負担を感じにくいこともメリットです」(菅原氏)

菅原氏や田中氏が所属する情報システム部でもZoomを活用しているという。

「例えば、トラブルシューティングの際に、現場の従業員にPCのブート画面をZoomで記録して送ってもらい、その様子を見ながら遠隔でサポートすると、ログを見るよりも素早く状況を特定できます。また、データセンターの中で、それぞれ遠くにいる複数のメンバーと相談しながら作業を進めたいときも、Zoomの複数通話機能を使います。スマートフォンを簡易トランシーバーのようにして、会話しながらそれぞれの作業を進めるのです」(田中氏)

社外の取引先や海外企業とやりとりもスムーズに実施

CTCは、グループ傘下に保守、運用サービスを手掛けるCTCテクノロジー、CTCシステムマネジメント、CTCファシリティーズ、CTCファーストコンタクト、製品販売ビジネスを担当するCTCエスピーなどを抱える。また、米国やタイ、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどにも拠点を構え、280社以上とのマルチベンダーパートナーシップの下でさまざまな製品を取り扱う。Zoomは、そうしたグループ会社間のやりとりや社外の関係者とのやりとりでも活躍する。

「Zoomは、会議用に発行した専用のURLに参加者がアクセスする仕組みです。取引先やパートナー、顧客など、さまざまな関係者を会議に招待し、セキュリティが確保された安全な環境で会議を進められます。特に海外ではZoomがデファクトスタンダードで利用されていることもあり、関係者とのやりとりがスムーズです」(菅原氏)

ITシステム管理の点からは、ユーザーがアカウント管理や権限管理などの作業を依頼する必要なく、自由に安全な環境で会議を実施できることは大きなメリットだという。

CTC 田中 貴之氏

CTC 田中 貴之氏

「導入に当たっては、マニュアルの配布や操作教育などを一切実施しませんでした。どちからというと現場任せで『好きなように使ってください』というスタンスです。Zoomは直感的な操作が可能なので、実際、操作に関する問い合わせは皆無といっていい状況でした」(田中氏)

マニュアルなしで浸透した背景には、経営陣や情報システム室がそれまでに実施してきた仕組みづくりの成果もあるようだ。CTCは2018年をめどに、働き方改革を目的にデスクトップPCからノートPCへの置き換えや、従業員1人当たり1台のスマートフォン支給、テレワーク制度や在宅勤務制度の充実、オフィスのフリーアドレス化などに取り組んできた。Zoom導入には、そうした取り組みの総仕上げの意味合いがあったという。

「率直に言うと、必ずしも全員の業務に必須のツールというわけではないにもかかわらず、Zoomがここまで浸透したことに驚いています。潜在的なニーズがあり、そこに使いやすいツールとして登場したことがユーザーから受け入れられたポイントだと思います」(菅原氏)

エンドユーザーの経験を基に顧客への提供も

社内ユーザーからの高い評価を受けて、CTCは今後、社内にさらなるZoomの積極的な活用を促していく方針だ。例えば、社内で毎月15件ほど実施しているイベントを、Zoomのウェビナー機能で配信していきたいという。

「CTCグループ従業員の約74%はエンジニアです。Zoomで録画したものをeラーニングと組み合わせて、エンジニアがいつでも自分のスキルを磨けるような仕組みを作りたい。Zoomは、『Microsoft Teams』や『Slack』といったチャットツールとの連携も容易にできますから、チャットからeラーニングのWebサイトに入るといったこともできると考えています」(菅原氏)

また、テレワークや在宅勤務などでもZoomを活用したストレスのない働き方ができることを周知していく。特にテレワークや在宅勤務は、ビジネス環境の変化に対応する上で重要な仕組みであり、Zoomが果たす役割も重要になってくると田中氏は指摘する。

「Zoomを導入してから、『直行直帰』で勤務する従業員の割合がかなり増えています。正確な集計はとっていないのですが、従業員の満足度が大きく上がっていると感じています。Web会議システムは専用機器の設置などの初期コストが必要ありませんから、投資の回収もしやすい。会議のために帰社していた時間だけを見ても、ライセンス費用は十分に回収できていると評価しています」(田中氏)

社外向けにもZoomを使ったミーティングの実施や社内イベントの公開などを積極的に進めていく方針だ。さらに、Zoomのメリットを実感できたことから、2019年4月からは、顧客向けにも商材としての提供を開始した。CTC傘下のCTCエスピーは、CTCでの導入経験を生かし、Zoomを顧客に提供するサービスを始めている。

「CTCがエンドユーザーとして経験したZoomのメリットや導入効果、効果的な使い方などをお客さまに直接伝えられます。ツールの導入やオフィスの使い方といったハードウェア面から、制度や意識改革などのソフトウェア面まで、さまざまなアドバイスができると思っています。そうした情報もできるだけ開示していきます」(菅原氏)

CTCエスピーのWebサイトや問い合わせ窓口からは、製品の機能や特徴、ライセンスなど詳しい情報が入手できる。テレワークの導入を検討している企業向けに、すぐにWeb会議が導入できるようトライアルプログラムを提供している。評価ライセンスの発行からオリジナルの基本設定ガイドの提供、期間中のQAの受付、会議室端末の貸し出しなどの導入支援を受けられる。Zoom導入を真剣に検討する組織は、参考にしてはいかがだろうか。

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  • この記事は、TechTargetジャパンに2020年3月に掲載されたコンテンツを再構成したものです。

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