イベントレポート

IBC 2016(於:オランダ)を視察してきました!

2016年9月7日より14日の8日間、オランダ アムステルダムにて開催されたIBC 2016(International Broadcasting Convention)に行ってまいりました。

ヨーロッパ最大の放送・映像業界のイベント「IBC」を視察し、最新の市場動向や技術について調査すると共に、新規ベンダーの参入等を見据えながら、4K関連はじめCTCSPの映像系ビジネスで今後取り組みたいことについて考察しました。

IBCとは?

毎年、オランダのアムステルダムで開催されるヨーロッパ最大の放送・映像業界のイベントで、世界中の放送・映像に関する最先端の機器、サービスが紹介されます。2015年開催時の来場者数は5日間で55,000人、出展社数は1600社と発表されており、その規模の大きさが伺えます。

今回、CTCSPがIBC 2016の視察へ行った主な目的は3つです。

  • 映像機器の三大展示会(NAB、IBC、InterBEE)を訪問し、今後の映像機器の標準化と方向性を理解する。
  • 主要機器ベンダーの最新製品とスペックを調査し、CTCSP取扱製品との整合性および競合性を理解する。
  • ビジネスパートナーのブース(Elemental・Aspera・Panasas)を訪問し、最新の製品技術動向・情報についてミーティングを行う。

Elemental Technologiesブースの様子

ブースの様子
ブースの様子
ブースの様子

IBCを視察しての所感

NOKIA社のOZO

NOKIA社のOZO

2016年4月のNABに続いてIBCの視察を行いましたが、NABが2016年の技術的な開発方向性を示唆する内容であるのに対し、IBCは開発成果を展示しており、来年度以降の業界の変化を占う上では重要なイベントと見受けられました。

NABでは、ドローンの新機種発表や新たな技術取組としてVR(Virtual Reality)が賑やかであったが、IBCでは見世物的なドローンの展示は大幅に減少し、VRもNOKIA社のOZOが各社とエコシステムを形成し実活用をイメージしたデモを行っていた程度で、それ以外の技術的視点でのVR訴求は未来技術ゾーンにおいて、ウェアラブルデバイスと連携したゲームのようなデモンストレーションのみであった。

この他、CTCSPの映像系ビジネスに影響をもたらすであろう事象を以下で独自レポートします!

加速する仮想化、クラウドサービス化

IBM

IBMもクラウドへ??

CLOUDと映し出されるモニター

映像のファイルからファイルへの変換(トランスコード)を行うクラウドサービスは登場して4年あまり経過し、現在では多くのサービスが乱立している状態にあります。

  1. 利用費用を安価に設定した低価格サービスと、スピードや品質を担保した上位サービスとに大別されている状況。
  2. 映像の伝送がアナログ的手法(衛星中継等)等からIPによる伝送へと移行が進む中、ライブ配信エンコードのクラウドサービス化も拍車がかかっている。Adobe社のRTMPプロトコルやHLSプロトコルが成熟し、それらのプロトコルにより伝送される映像・音声をリアルタイム処理できるエンコーダーが増加したことが背景になる。
  3. 後述するSDI over IPの規格化とベンダーのフォローにより、今後は劣化の無い映像・音声がIPネットワークで伝送可能となり、放送局のフローさえクラウドで処理される可能性も出てきた。
  4. インテルCPUでのエンコード処理性能が向上しており、インテルCPUベースのホワイトボックス+オープンスタック+仮想化+エンコードソフトウェアという組合せが大規模エンコード処理において採用される可能性が大いにある。
HARDWARE IS DEADと映し出されるモニター

とても印象に残ったキャッチフレーズ 会場を見渡して痛感!

映像信号のIP化

IP Live
  1. 映像信号のIP化は否劣化のSDI信号に拡張。放送局では今日SDI、HD-SDI、3G-SDIとよぶデジタル(否劣化)信号をベースにワークフローが組まれている(ベースバンド信号と呼ぶ)。これらの信号は長年利用され醸成されてきたもので、同軸ケーブルとカシメ付のBNCコネクタ接続による100mまで伝送可能な信頼度の高いものである。このSDI信号をそのままIP化してロスレスで利用しようという動き。
  2. 標準化としてSMPTE 2022-5/6が定義され、SDIとIPのゲートウェイとなる製品(主としてハードウェア)も各種登場。IAサーバ用のインターフェースもリリースされており、エンコーダーでも組み込んで利用できる状況。
SDI MUST DIEと映し出されるモニター

放送の世界に君臨してきたSDI信号もIP化の波で死んでいく!

  1. IP化の恩恵は映像伝送だけでなく、映像・音声の入力/出力の切り替えスイッチについてもIP層でスイッチできることになり、今回のIBCでは複数ベンダーが映像のIPスイッチを出展していた。
  2. 前項の仮想化と同様、IP化がもたらすものは、映像フローの実施がデータセンターやクラウド上で品質を落とすことなく可能にすることであり、放送局のフローのクラウド実行を可能とするものであり、ポスプロを含めワークフローが現状から大きく変化することを意味する。
DISRUPTと映し出されるモニター

創造的「破壊」映像のレガシーも壊されていく!

4Kのワークフローは整った

  1. 4Kは2013年度から次世代放送技術として注目され始めた技術。2013年は新技術としての要素が高く、4Kの圧縮、伸長、伝送の技術が中心で編集や配信、保護の技術が欠けていた。
  2. 2016年現在で、4Kの編集、配信、保護についてのソリューションや製品、また上記したIP伝送に至るまで全てのパートが製品でカバーされた。
  3. これにより4Kのプロダクションが本格化することは必至で、地上波TVは4Kプロダクションで制作されたコンテンツを2Kにダウンコンバートして配信することになり、IP同時放送やIPによるVODサービスでは4Kコンテンツが本格的に登場するものと思われる。
  4. これにより4Kエンコーダーの需要が増加するが、価格競争、クラウドサービスとの競合、HDR、HLG等の新技術のサポートが非常に重要。

インテルは映像技術についても本気!

インテルブース
  1. IntelはCore-iプロセッサーの新世代で内蔵GPUを大幅に強化。
  2. Intel自身で内部GPUを使うエンコーダーモジュール(開発キット)を展示。
オレンジがGPUのエンコード

オレンジがGPUのエンコード

Core-i7を複数チップ搭載したアクセラレータ

Core-i7を複数チップ搭載したアクセラレータ

  1. エンコーダーに加えてHome Gatewayにも積極的に取り組んでいる様子で、インターネットとHome Network(WiFi含む)のルーター機能に加えて、OTT映像サービスへの接続、録画(DVR機能)、モバイルデバイス(スマートフォン、タブレット)へのフォーマット変換配信にも対応。
  2. IP STBよりも手前のルーターの位置で映像サービスが可能になることで差別化を図り、一般的なルーターの置き換えという大きな裾野産業の獲得が可能となる。アーキテクチャーに賛同するアクセスルーターベンダーが採用すると市場でのデファクト化が進むかもしれない。
  3. 半導体のガリバーであるインテルが本気で参入することで、エンコーダー等の開発の自由度と要求されるスキルが大幅に下がり、新規参入を促すかもしれない。

広がる映像市場への新規ベンダーの挑戦的参入

  1. エンコーダー等の技術もSoftware Defined化が加速し、Elemental、Harmonic等のトップベンダーもソフトウェア技術を強調しているが、一方ではこれから拡大する4K市場を見据えてコンパクトなボードエンコーダ―を提供するメーカも登場。台湾のAdvantech社が完成度の非常に高い4K PCI-eボードエンコーダーを展示。16Wという非常に低い消費電力でHEVC 4K 60Pライブエンコードを実現。また同メーカーは複数ボードをインストールすることで8Kのライブエンコードにも対応可能としていた。
4K PCI-eボードエンコーダー
  1. 映像伝送等の単機能エンコードとしては必要十分な機能をコンパクトに実現していた。
  2. FPGAの老舗がHEVC 4K60Pエンコード可能なCHIPを展示。CHIPレベルになると歩留りの問題はあるが、さらに安価なエンコーダーの製造が可能となり、小型・低価格BOX型エンコーダーの登場も来年にはあるかもしれない。
  3. 昨年までほとんどなかった4K60P再生に対応したSTB(DVBおよびIPに対応)が数多く出展されていた。(ほとんど台湾、中国のベンダー)HLSやMPEG DashといったOTTプロトコルへの対応も標榜しているベンダーが多く、IPでの4Kサービスは必要な要素が全て揃った印象。

あんなこといいな!できたらいいな!
~CTCSPで取組みたいこと

asperaブース
  1. 既存パートナーのソリューションと直接競合しない、差別化要因の明確な製品の追加導入。
  2. Aspera社のFASPStream:FASPStreamはAspera社のP2P、Asperaサーバ上ですでに利用可能な技術でライブ映像伝送にFASPを利用することで帯域の確保と安定性を担保できる。放送局や映像の多地点からの集信に活用可能。すでにリオデジャネイロで開催されたスポーツ国際大会で採用実績あり。GUI等のある完成品ではなくコマンドラインでの設定になるのでSI商材としての取り扱いとなる。保守やサポートが課題。
  3. これまでHPC用のストレージとして取り組んできたPanasas社であるが、映像編集・エンコードのワークフローでは既存製品と伍して、より高い性能を、より低価格で、よりスケーラブルに提供できる可能性が今回のIBCで理解でき、同行したお客様の印象も悪くなく、メディア市場向けに新たに販売戦略を立てたいと考える。
オレンジがGPUのエンコード
NFSとDirectFlowの速度比較

NFSとDirectFlowの速度比較 3倍以上の性能差!

Zao現行機(左)新型機(右)

Zao現行機(左)新型機(右) 非常に小さくて軽い!

  1. ソリトンシステムズ社のSmart-telecasterの拡販:昨年度より販売を開始したSmart-telecaster Zaoが劇的に小型化。H.265を採用した映像モバイル伝送装置としてはエポックメイキング。企業ユーザーでの利用に期待。

以上、CTCSP独自目線になりますが、IBC 2016の視察レポートでした!

参考(最先端技術)

球体360度ディスプレー

球体360度ディスプレー

超薄の8Kディスプレー(NHKが参考出品)

超薄の8Kディスプレー(NHKが参考出品)

オレンジがGPUのエンコード
Core-i7を複数チップ搭載したアクセラレータ

VR 上360度体験型ゲーム 下ウェアラブルVR体験

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