突撃取材レポート

Elemental CEOが語るAWSによる買収後の変化と期待されるシナジー効果とは?

Elemental CEOが語るAWSによる買収後の変化と期待されるシナジー効果とは?

このほどElementalの最高経営責任者(CEO) 兼 共同創業者のサミュエル・ブラックマン(Samuel Blackman)氏が来日。日本における映像配信市場への取り組みやAWSとのシナジー効果などについて取材しました。

ストリーミング市場の成長に合わせてElementalも進化

Elementalの最高経営責任者(CEO) 兼 共同創業者 サミュエル・ブラックマン(Samuel Blackman)氏

Elementalの最高経営責任者(CEO)
兼 共同創業者
サミュエル・ブラックマン(Samuel Blackman)氏

石﨑:日本では固定系光回線サービスやLTEなど高速ブロードバンドサービスの普及によって、VoDなど有料動画配信サービスを利用するユーザーも増加し、動画配信サービス市場は2014年の1343億円から2020年には2006億円に拡大すると予測する調査結果もあります。グローバルでの映像配信市場について、ブラックマンさんが予測する展望をお聞かせください。

ブラックマン氏:グローバルで見てもビデオストリーミング市場は急成長しています。その背景にあるのは、さまざまなパラダイムシフトの発生です。昔は家庭の居間でTVを視聴することが一般的でしたが、現在はスマホやタブレット端末が急速に普及したことで、場所や時間を選ばずにインターネットが利用でき、スマートデバイスが動画を視聴するメインのスクリーンに変わりつつあります。

TVのサービスそのものも、従来は地上波や衛星放送、ケーブルに限定されていましたが、近年はOTT(Over The Top:インターネット回線を通じてメッセージや音声、動画コンテンツなどを提供する、通信事業者以外の企業)向けのサービスも急増しています。まさにマルチデバイス視聴を後押しするようにストリーミング市場が成長しており、それに合わせてElementalも成長してきたといってもいいでしょう。今後2年間はこの成長が衰えることはないと見ています。

そこで重要なことは2つあります。1つは、サービスの面から見た場合、Netflix やHulu、Amazonプライムビデオなど、今までになかったサービスが続々と登場しており、当社もキャッチアップしていかなければならないと考えています。
また、もう1つは、テクノロジーの面から見た場合、従来のTVは不特定多数の相手に向かってデータを送信する「ブロードキャスト」でしたが、OTTは単一のアドレスを指定して特定の相手にデータを送信する「ユニキャスト」でビデオを配信していますので、誰が、いつ、何を視聴しているのかをトレースすることができ、ユニークなターゲティング広告を掲載することができます。これは収益事業化においては非常に重要で、インターネットで起きた革新がビデオの世界でも同様に起きようとしているのです。

Elementalはソフトウェア機能を磨き上げて
高い性能の提供にフォーカス

図1 CTCSPが「Inter BEE 2015」で展示したElemental Live(上)とElemental Server(下)

図1 CTCSPが「Inter BEE 2015」で展示した
Elemental Live(上)とElemental Server(下)

ブラックマン氏:これらのパラダイムシフトは、ビデオデリバリなどのビジネスにおいてとても明るい要素で、CTCSPもよいビジネスが期待できるのではないでしょうか(笑)。

石﨑:私たちもそれを大いに期待しているところです(笑)。そんな明るい見通しの映像配信市場に対して、Elementalでは今後どのようなアプローチが計画されているのでしょうか?

ブラックマン氏:Elementalは2006年に起業してから、ソフトウェア定義型の映像ソリューションやマルチスクリーンのコンテンツ配信を実現するビデオプロセッシング技術にフォーカスして開発を行ってきました。多くの同業他社はハードウェアによるビデオ処理技術でアプローチしており、FPGA(プログラミング可能なゲートアレイ)やDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)で機能を開発したり、ASIC(特定用途向け集積回路)を組み合わせて機能補完したりしていますが、それに対してElementalはGPU(グラフィック処理専用ユニット)やiGPU(CPU内蔵GPU)など商用オフザシェルフの製品を活用しながら、できる限りソフトウェア機能を磨き上げて高い性能を提供することにフォーカスし続けています。

ソフトウェアのアドバンテージは、性能面でハードウェアのアプローチと同等かそれ以上のビデオ品質を実現できるようになっている点だと思います。ハードウェアの場合は機能の変更が生じた時その対応でかなりの時間と労力を必要としますが、ソフトウェアなら柔軟でスケーラブルに設計変更の対応ができます。毎日のようにビデオデリバリの要求は変化しており、iOSやAndroidのバージョンは更新され、Apple TVやゲームコンソールなどもストリーミングを視聴するデバイスになっており、広がりを見せています。それらに対するフレキシビリティとスケーラビリティは非常に重要で、市場のダイナミズムに柔軟に対応できるのもソフトウェアによるアプローチのメリットだと考えています。

石﨑:最近はマルチデバイスだけではなく、プライマリスクリーン(家庭のTV)への要求も急速に変化しています。4K/ 8K、HDR(High Dynamic Range)、ガンマ補正のサポート、ハイモーション対応に向けたフレームレートの拡大など、それらをキャッチアップしていくにはソフトウェアでなければ実現は困難でしょうね。

ブラックマン氏:おっしゃる通りです。お客様のサービスを未来永劫拡張させるには、最初はオンプレミスでサービスを始めても、次にバーチャルマシン上で動作させ、最終的にはクラウドを活用できるようにしなければなりません。Elementalはそのマイグレーションの進化に対してシームレスにサポートできる体制が整っています。

石﨑:Elementalはソフトウェアでのアプローチと同時にフィーチャーリッチの機能を提供することで、お客様の要求に柔軟に対応できるようリーダーシップをとっていくということですね。

世界初となる4K映像のライブ配信に成功

石﨑:では、日本の映像配信市場におけるアプローチに関して、具体的にどんなことをお考えなのかお聞きしたいのですが。

ブラックマン氏:そうですね。日本市場に対しては、まあ他国に対してもそうですが、Elementalの技術を高く評価していただけて、かつ影響力のあるトップティアのお客様にアプローチをします。既に、大手放送局や大手IPTV事業者などにご活用いただいておりますが、各社からのご要望に柔軟かつ高い品質で対応し、次世代への要求にも可能な限り応えていきます。そうした影響力の高いお客様にElementalの製品をご利用いただき、ご満足していただけることが、日本のマーケットの裾野を広げる鍵だと思っています。

日本では、パートナーであるCTCSPと協調したおかげで、お客様への積極的なアプローチとヒアリングによる信頼性の高いフィードバックがなされ、大変多くのことを学ぶことができた上に、日本市場への展開も適切に行うことができました。

特筆すべきは、日本は他国に比べてテクノロジーへの関心が非常に高いという点です。エポックメイキングだったのは、CTCSPがElemental Liveを中心としたライブ映像配信システムをわずか2ヶ月という短期間で放送局に納入し、そのシステムが2012年に開催された全世界が注目する国際大会のインターネットライブ配信に活用され、大成功を収めたことです。

石﨑:あの時は10社以上のライブエンコーダ製品が1ヶ月にわたって厳しく比較審査され、パフォーマンス、柔軟性の面でElemental Liveが他社に圧倒的な差をつけて合格しました。

図2 Elemental Liveは1台で8本までのFull-HDもしくは20本までのHDストリーミングをリアルタイムでエンコードすることが可能

図2 Elemental Liveは1台で8本までのFull-HDもしくは20本までのHDストリーミングをリアルタイムでエンコードすることが可能

ブラックマン氏:日本は新しい技術や先進の技術を取り入れることが多いのですが、もう1つの例が2013年の大阪マラソンですね。当時日本で初めて4Kによるライブストリーミングを行い、話題となりましたね。CTCSPは早い段階から4K映像のH.265/HEVCエンコードに取り組み、Elemental製品の販売から得た知識や経験を活かしてシステム構築を行ったことで、4K映像のネットワークを通じたライブ配信を成功させたのです。

図3 2013年の大阪マラソンにおける4K映像ライブ伝送実験全容とElemental Liveを活用したCTCSPのシステム構築範囲(黄色の点線内)

図3 2013年の大阪マラソンにおける4K映像ライブ伝送実験全容とElemental Liveを活用したCTCSPのシステム構築範囲(黄色の点線内)

石﨑:あれもハードな作業でしたね(笑)しかし、Elementalの技術支援のおかげでノートラブルのままやり遂げることができ、大きなニュースになりました。その経験が活き、翌年2014年の大阪マラソンでも、Elemental Liveを用いて、国内で初めてFTTH網を利用して4K映像をパブリックビューイング会場に設置された4Kテレビに、CATV放送、BSデジタル放送、地上デジタル放送に対応した形式で生中継しました。

ブラックマン氏:そうした試みは大変すばらしいとことで、日本市場の先進性を研究する上で重要なイベントになりました。

CTCSPとElementalの関係は
4年を経てより強固なものに成長

石﨑:ElementalとCTCSPとのリレーションシップはかれこれ4年以上になりますが、今後CTCSPに期待することとは何でしょうか?

ブラックマン氏:CTCSPとElementalの関係は4年を経て、より強固なものに成長していると感じています。今後も、CTCSPには先進のマルチスクリーンでビデオ配信しているお客様の要望をElementalにフィードバックしていただくことで、Elementalの技術陣がどのような技術を組み込むべきか、どのレベルにまで信頼度を高めるべきかを検討することができるので、2社が一体になってチームワークを高めることで日本市場をより活性化していくことを期待しています。 また、欧米の市場ではオンプレミスで機器を利用するのみならず仮想化環境に移行して、プライベートクラウドやパブリッククラウドを積極的に利用する方向へシフトしています。日本でも同様なことが起こるでしょう。その革新をCTCSPが主導し、次世代のワークフローや新技術をお客様に提供することで、お客様を新たな段階にマイグレーションする支援も行っていただきたいと思っています。

石﨑:私たちも同じ意見です。4K配信やアダプティブビデオストリーミングなどの最先端な技術をElementalとともに日本で浸透させたいと考えています。

ElementalとAWSが1つのチームとして
お客様によりよい技術とサービスを提供

石﨑:ところで、昨年大きな話題となったElementalとAWSとの経営統合ですが、Elementalの今後はどのように変わっていくのでしょうか?

ブラックマン氏:AWSはAmazon.comの中でもクラウドコンピューティングにフォーカスする部門で、今後ElementalはAmazon.comの子会社として活動していきます。
現在、マルチスクリーンとプライムスクリーンの変化と成長が世の中で起きていますが、これに追いつくためには膨大なリソースが必要です。特に開発リソースが不足した場合、市場の成長に追従できません。今回のAWSによる買収でこのリソースを受けることが可能になり、最も重要なR&Dへの投資が実現できることはElementalにとってポジティブなインパクトがあると考えています。

とはいえ、Elementalは完全に独立した会社として存続していますので、ブランドやお客様からのコンタクト窓口など、重要な部分は全く変わりません。それよりも、今後は新たな製品の開発計画や技術研究などが従来以上に加速することも可能になるので、マイナス面は全くないとご理解いただいて結構です。

石﨑:それを聞いて安心されるお客様も多いでしょう。

ブラックマン氏:Elementalの持つ技術的なコアバリューとAmazon.comの持つ市場でのリーダーシップの2つが融合することは非常にポジティブに捉えています。Elementalの重要なコンセプトに「Innovation」(新結合)があり、「Integrity」(誠実)をモットーとしています。一方、Amazon.comのコンセプトには「Inventive Simplifier」(シンプルな革新性)というものがあり、同様に「Earth's most customer centric company」(地球でも最も顧客中心の企業)を企業コンセプトに据えています。従来は異なるカルチャーでビジネスを進めてきましたが、お互いに近い企業理念・哲学を持つことが分かりました。今後は2つの文化を有機的に統合することにより、1つのチームとしてお客様によりよい技術とサービスを提供できると確信しています。

繰り返して申しますが、今回のAWSによるElementalの吸収合併で失われるものは何一つないと断言できます。Elementalは従来からのオンプレミスのハードウェア製品と、それを仮想環境で稼働するソフトウェアやクラウドサービスを提供し続けますし、リソースが追加されることで製品ラインナップやポートフォリオが拡充する方向で動いています。そのため、お客様の期待に応えられないということは全くございません。どうかご安心ください。

石﨑:両社のシナジーには日本のお客様も大いに期待していると思います。その相乗効果が表れるのはどのような形で、いつ頃になるのでしょうか?

ブラックマン氏:今回の買収を契機に、AWSの日本におけるオペレーション部門と密接に連携し、Elementalの持つビデオプロセッシング技術が、AWSのAmazon S3(クラウドストレージサービス)やAmazon EC2(仮想クラウドサーバー)、Amazon CloudFront(コンテンツ配信ウェブサービス)などとシームレスに融合することで、間もなく日本のお客様においても分かりやすく使いやすいサービスをワンストップで提供できるようになると思います。期待してお待ちください。

石﨑:それを大変楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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